ページの本文へ

Hitachi

安全を見抜くミクロの眼。第54回機械振興賞の最高位「経済産業大臣賞」*1を受賞。
製造業を下支えする検査装置で、次の社会の可能性を探る。

時代が求める最高位に輝いた“裏方”の実力

スマートフォンやパソコン、自動車などに搭載される半導体が、小型化・高密度化しています。また、自動車に搭載する電子回路を筆頭に、安全性に直結する製品に対しては、抜き取り検査ではなく全数検査のニーズが高まっています。大量の高密度化した製品を、いかに高速かつ高効率に全数検査するかが、近年の電子部品メーカーの大きな課題です。
この課題に応えるのが、当社の超音波映像装置「FineSAT V」です。「FineSAT V」では、従来の超音波を用いた非破壊検査では困難だった極めて高密度な電子部品の内部を、画像を鮮鋭化して検査できることはもちろん、10マイクロメートル(0.01ミリメートル)までの部品内部の欠陥を自動的に検出しますので、検査のスピードアップや効率化に貢献します。それでも検査装置は、製造の最終工程を担う、いわば“裏方”です。その裏方が今回、機械振興賞の最高位「経済産業大臣賞」を受賞したのです。ここ数年、誰もが知る自動車メーカーの技術が受賞していたこともあり、知らせを聞いたときは、うれしいよりもびっくりしたというのが率直な感想でした。

*1
受賞名は「最先端電子部品向け高感度超音波検査装置」で、株式会社日立製作所と当社の共同受賞。この装置の技術は「FineSAT」シリーズの最上位機種である「FineSAT V」にオプション搭載されている。

トライ&エラーを重ねたアイデアの結実

今回の受賞の大きなポイントは、新たな統計的手法を用いて検査画像判定の高精度化を図った「欠陥自動判定技術」でした。「FineSAT V」の開発で私は、欠陥自動判定技術を含めた画像処理の一部を担当しましたが、開発で特に苦心したのは、画像の欠陥判定に関わるパラメータ*2の細かい調整です。私たちのお客さまである電子部品メーカーが求める全数検査では、大量の画像をチェックしなければなりません。開発中、1、2枚の判定に成功しても、何十枚となると、どうしても正確に検出できない画像が出てくる。そうなると、画像処理のパラメータを微調整してまた1枚目からやり直す、といった地道な作業を繰り返さなければなりませんでした。さらに、いったんOKが出ても、検査を重ねていく中で、検出の精度が低下すればやり直しになったり、当社のテスト結果から得たお客さまの要望を基に再調整したりの連続でしたから、完成にこぎ着けたときは本当にうれしかったし、達成感もひとしおでした。
私が担当する画像処理は、ソフトウェアの領域です。多くの作業が自分のパソコン上で完結できますので、実験中に思いついたアイデアはどんどん試していきました。もちろん、実験から製品段階へと工程が進む際にはハードルが一つ上がりますが、創意工夫や試行錯誤を重ねられる自由度の高い環境もまた、今回の名誉ある受賞につながった一因だと考えています。

*2
ソフトウェアシステムの挙動に影響を与える、外部から投入されるデータ・分析条件

検査装置が社会のためにできること


サービス&プロダクトソリューション事業統括本部
プロダクトソリューション本部
デバイスソリューション部
梅田 雅通

検査の高精度化は、ゼロカーボン社会の実現にも貢献していくと考えています。例えば、排ガス規制の強化で、自動車には今後より高いレベルの環境性能が求められるようになります。その結果、自動車に搭載する制御用の電子部品に対する高品質化へのニーズもさらに高まるはずです。「FineSAT V」などの超音波映像装置は、高品質な電子部品の供給を下支えすることで、ゼロカーボン社会実現の一翼を担っていると言えるのではないでしょうか。また、検査の高精度化は、廃棄物を減らすこともできます。これまで半導体素子の土台となるウェーハ*3の検査では、一部に欠陥が見つかると全体を使えないものと判断し、正常な部分もすべて処分していました。しかし、「FineSAT V」なら、欠陥部分を正確に抽出できるので、同じウェーハの正常な部分は、廃棄する必要がなくなります。つまり、産業廃棄物を減らすことができるのです。
このような効果をもたらす検査装置が社会や環境に与える恩恵や意義は、決して小さくありません。今後も、装置の性能・機能を向上させて、電子部品のさらなる高密度化・高集積化をキャッチアップしていきたい。今回の受賞はあくまでも一つの通過点で、性能向上や機能改善の取り組みに終わりはありません。常にチャレンジングな目標を掲げて、これからもより積極的に研究開発に取り組み、社会に貢献できる技術や製品を追求していきたいですね。

*3
半導体素子製造の材料