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Hitachi

「調整力」が未来をつくる。ドイツ連邦共和国での大規模ハイブリッド蓄電池システム実証事業が完了。
知見を生かして、日本の再生可能エネルギーの 普及をリードする。

再生可能エネルギーの課題解決のために

ドイツは、2050年までに国内電力需要の80%以上を再生可能エネルギーに代替するエネルギー転換政策を推進している環境先進国です。電力取引市場も、原子力発電や火力発電といった従来の電源と統合されていますが、気象の影響を受ける太陽光や風力といった再生可能エネルギーの発電量は、需要変動への追随が難しいといった側面があります。そこで発電した電気を蓄電池に蓄え、需要に応じて供給電力を調整する仕組みをより経済的に確立しようというのが、今回のプロジェクトのねらいの一つです。

NEDO*から委託を受けた日本企業は蓄電池メーカー2社と当社の3社で、とっても「調整力」が求められるプロジェクトでした。当社への要求は、各メーカーで出力や容量などが異なる2種類の蓄電池の特徴を生かし、システムの運用を経済的に最適化するための制御でした。これは、両者間での電気の融通や充放電による電池残量の管理で、リアルタイムで需給バランスを保つための調整機能です。風力発電設備などで蓄電池システムの設計・施工からメンテナンスまで、一気通貫で対応してきた豊富な導入実績や蓄電池の制御ノウハウを持つといった強みが、当社が委託先に選ばれた要因です。

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New Energy and Industrial Technology Development Organization : 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

写真提供:EWE AG、NEDO
大規模ハイブリッド蓄電池システム(ドイツ連邦共和国ニーダーザクセン州)

インフラとしての調整力とその社会的意義

2006年に電力の需給調整市場が開設されたドイツでは、電力の需給バランスを保つ調整機能が、すでに「調整力」として制度化されていました。これは、電力供給の応動時間や継続時間などを定めた規定に基づき高い応答性が要求されるものから、「一次調整力」「二次調整力」「三次調整力」という商品区分で分類されています。
プロジェクト参画に際して私たちが困惑したのが、「調整力」という概念そのものでした。需要に即した供給で周波数を安定させて電力の品質を担保する調整力は、産業全体を根底から支える重要な社会インフラです。調整力が不足すると周波数が不安定になり、生産設備の安定稼働が損なわれ、製品の品質が維持できなくなります。私たちはまず、調整力の社会的意義、制度の技術的要件や運用ルール、市場の構造などを根本から理解することに努めました。そのうえで、この実証事業の目標と意義を再認識したのです。
両国の複数の企業・組織が協働した今回の実証事業における私の役割は当社のプロジェクト管理のサポートで、主にドイツ側との交渉や契約などに携わりました。蓄電池の制御やシステムと電力取引市場との連携など、事業フローの上流・下流の要所を当社が担っていたため、各社との密な連携が不可欠でしたが、時間も予算も限られているにもかかわらず、各社の開発仕様が決まっていないなど、その調整に本当に苦労しました。特に、ドイツの企業では業務の役割分担が細分化されていながら、それぞれの意見や要望をまとめる立場の人がいなかったため、相手に半歩、一歩と踏み込んで、担当者一人ひとりと根気強く交渉を進めなければなりませんでした。私にとっても「調整力」が求められるプロジェクトでした。

まもなく開設される日本の需給調整市場に向けて


エネルギーソリューション事業統括本部
再エネソリューション本部
ガスエンジンシステム部
寺山 ひかる

実証のさなかでの規定変更など、想定外の事態に見舞われながらも、私たちが手がけた大規模ハイブリッド蓄電池システムは、ドイツでも基準の厳格な一次調整力、それに続く二次調整力ともに認定を取得できました。また、絶えず変動する需給調整市場の価格をにらみながら、経済性という観点に基づいた電力取引の経験ができたことも大きな収穫です。
こうして2020年2月末、さまざまな困難を乗り越えた実証事業は成功裏に完了しました。2021年度、日本でも需給調整市場が開設され、2024年度には本格始動します。今回の知見を活用して市場を安定化・活性化させ、今後の日本における再生可能エネルギーの普及や主力電源化政策を後押ししていきたい。そして、日本の調整力ニーズにしっかり応える技術の確立や環境づくりにも貢献していきたいですね。