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頻発する河川の氾濫対策に取り組む研究で
リアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」を活用

滋賀県立大学 環境科学部 准教授 瀧 健太郎 様

解決策

  • 一つのソフトウエアで降雨から氾濫までを解析。統一的な観点で流域全体のリスク評価を実現。解析作業の内製化で費用削減にも貢献。
  • 一般的なパソコン環境で、地図と一体化した解析を可能にするシステムによって迅速な調査準備に貢献。
  • 豊富な機能と汎用性の高い操作性で作業を標準化するとともに、解析を高速化。解析時の手間と時間を大幅に短縮。

活用の成果

解析するほど水の気持ちが分かるようになる

流域全体の河川の流れを読み解き、安全で安心な社会づくりをめざす瀧氏の研究に、DioVISTA/Floodはどのような成果をもたらしたのでしょうか。
「滋賀県全体で氾濫をシミュレーションするために、以前は莫大な時間とコスト、労力をかけていましたが、計算処理が速いDioVISTA/Floodなら、短時間に、かつ統一的に行うことができます。最近では、多方面から流域治水の相談を受けるのですが、何ができるのかをDioVISTA/Flood で事前にチェックしてから提案することができます。氾濫解析やリスク評価だけではなく、さまざまな流域治水対策を積極的に試行錯誤するためのツールとして、この使いやすさと計算の速さはすばらしい」と語る瀧氏が、さらに続けます。
「DioVISTA/Floodを使って解析するほどに、“水の呼吸”がつかめるようになります。計算速度の速さや高い操作性は、容易に試行錯誤ができるのです。若い技術者が自分で解析したデータを持って現地を見ると、現象に対する理解が一気に深まり、技術者として大きくステップアップします。”水の呼吸“を身につけた河川技術者を育成するうえでも、DioVISTA/Floodは非常に大きな貢献を果しえるツールだと思います」

図:流域全体の浸水リスクのイメージ
流域全体の浸水リスクのイメージ

図:シナリオごとの計算時間
シナリオごとの計算時間

河川流域研究の最前線で活用されるDioVISTA/Floodは、どのような目的で開発されたのか、研究開発グループの山口氏が説明します。
「計算速度は『Dynamic DDM*1』という手法を採用することで向上を図りました。これは日本・アメリカ合衆国・中華人民共和国で特許を取っているうえ、高い効果が認められ、公益社団法人発明協会から令和元年度(2019年度)関東地方発明表彰『発明奨励賞』もいただきました。こうした防災に役立つ精度の高いソフトウエアを、手軽に自分のパソコンで使えることに開発の主眼を置いていました。

ただし、パソコンは日進月歩で進化しています。記憶媒体は、HDD(Hard Disk Drive)からSSD(Solid State Drive)に高速化し、CPU(Central Processing Unit)もコアが複数あって並列で計算ができるようになりました。こうした構成に合わせて日々ソフトウエアを改良して、使いやすさを追求しています」

  • *1 Dynamic DDM(Dynamic Domain Defining Method):氾濫シミュレーションにかかる処理量を低減させる計算手法で、シミュレーション実行中に計算する領域を水の流れに合わせて動的に拡大、縮小させる。特許第4761865号。
株式会社 日立製作所 研究開発グループ 先端AIイノベーションセンタ知能情報研究部 主任研究員 山口 悟史(やまぐち さとし) 氏
株式会社 日立製作所
研究開発グループ
先端AIイノベーションセンタ
知能情報研究部
主任研究員
山口 悟史(やまぐち さとし) 氏

川と街が一体となった対策が今後の治水の主流へ

瀧氏の下には、滋賀県のみならず全国各地から流域治水の相談が寄せられます。DioVISTA/Floodを使えば、事前にそれぞれの地域の氾濫特性をざっとチェックをしたうえで議論に臨めるので、解決に向けての検討が効率的に進むといいます。
「さまざまな対策を試行錯誤するために、計算結果算出のために時間をかけすぎず、すぐに計算結果を踏まえた対話ができることは、日本の治水を進めるうえでとても重要なことです」と瀧氏。その日本の治水はどのような方向へ向かうのか、さらにお聞きしました。
「これまでは河川の堤内と堤外を分けて考えられていましたが、今後は川からあふれることも一つの前提として、地域全体で対策していくことが主流になります。2020年7月には、国土交通省がこれからは国としても川づくりと街づくりを一体で考える流域治水に転換していくことを示しました。例えば、河川部局と都市部局では管理区分が異なっていたため、空間的にも技術的にも分断されていたものが、DioVISTA/Floodを活用すれば一体化して考えることができます。これまでキーワードとして挙げている『人の命と暮らしを守るために』は、どのように氾濫するのかを的確に把握することが有効な対策の検討につながるでしょう。自分の家が何時何分に浸水するのか、それはどの程度なのか、どのような勢いで洪水が来るのか。自分の住んでいる場所や通っている学校、会社、病院などにはどのようなリスクがあるのかを、このソフトウエアを使えば見えるようになります。これは都市計画や住宅開発にも関わることで、より安全で豊かな街づくりが日本中のそれぞれの地域で、その地域の特性に合わせて展開されることが期待できます。気候変動や人口減少で国土の再編が起こるであろう、これからの時代にとって非常に重要です」と瀧氏。
川づくりと街づくりを一つのこととして捉える瀧氏の考えに、DioVISTA/Flood開発者の山口氏も、「15年前にこのソフトウエアを開発した当初の目的は、河川氾濫に対する防災でした。街づくりの領域のもので、水工学とは相容れないものでした。しかし、時代が移り変わり、激しさを増す気候変動に起因する河川氾濫などが度重なったことから、川と街が切り離せないものであることに着目。一体化させたコンセプトの下でDioVISTA/Floodを練り込んでいきました。ほかのソフトウエアにはない構成であると自負しています」と、思いは同じだと語ります。河川氾濫に関する取り組みは、決して研究室の中だけのものではありません。私たち一人ひとりの問題であることを、瀧氏はDioVISTA/Floodによるシミュレーションを通して示してくれます。

図:DioVISTA/Floodの画面構成
DioVISTA/Floodの画面構成

図:流域全体の浸水リスク検討のイメージ
流域全体の浸水リスク検討のイメージ

図:降雨分布の表示
降雨分布の表示

図:避難行動の危険度分布図の作成
避難行動の危険度分布図の作成

今後の展望

DioVISTA/Floodは河川技術者を育む人財育成ツールに

河川の氾濫リスクをシミュレーションし、被害を最小限に抑えるための対策に役立つDioVISTA/Flood。防災分野はもちろんのこと、社会インフラシステム分野、建設分野、損害保険分野など、幅広い分野での活用が期待される中、教育者としての立場から瀧氏が着目するのが研究・教育分野での活用です。
「毎年のように起こる水害の惨状を目の当たりにして、将来は防災の分野で貢献したいという学生が、私の研究室にもたくさん集まってきます。研究所紹介のときに、DioVISTA/Floodで計算したものを見せて、『今はこんなことまでできるんだよ。このデータを現地に持って行って、どうやって避難すると良いか地域の人と一緒に考えよう』と呼びかけると、皆が目を輝かせます。本当に人の役に立つものを自分の手で生み出せるということは、学生の社会貢献への気持ちをかきたてます。環境科学に限らず、最初に学びの目的がはっきりすると、知識を体系的に吸収する意欲が変わってくるのではないでしょうか。連続式や運動方程式を勉強する前に、学生は何のために数式を学ぶのか、その目的を示すことを大切にしたい」と瀧氏は言います。さらに、「中学生や高校生もDioVISTA/Floodに触れることができるようになったらおもしろい。ぜひ教育用バージョンをつくってください」と宿題もいただきました。

情報の速報性が重要な水害。47都道府県にDioVISTA/Floodの設置を!

日立パワーソリューションズは日立製作所と連携して、河川氾濫による水害の最小化に貢献する「ダム放流計画の自動作成技術」の開発を発表しました。その内容について、研究開発グループの山口氏が説明します。
「これは、DioVISTA/Floodの中でさまざまなダムの放流を行い、いくつかのパターンの中から最適解を導くソリューションです。実用化に向けては、法的な枠組みや従来のやり方にどう組み込んでいくかなど、多くの課題があります。瀧先生をはじめ多くの学術研究者に使っていただき、ご意見を頂戴しながら2021年度には日立パワーソリューションズから製品リリースしたいと考えています」

図:ダム放流計画立案支援のイメージ
ダム放流計画立案支援のイメージ

DioVISTA/Floodのさらなる活用法の一つといえるソリューションですが、新しい時代の新しい仕組みづくりを進めるために、もっとDioVISTA/Flood のようなソフトウエアを浸透させることが必要だと瀧氏は提言します。
「水害が起こってしまったら、一刻も早く何が起こったのかという情報を提供することが重要です。どこがウイークポイントとなったのか、どれくらいのタイミングで浸水したのか、避難することだけ考えればいいのか、暮らし方も変えなくてはいけないのかなど、一刻も早い情報の提示が、復興の指針になります。例えば、47都道府県庁に一つずつDioVISTA/Floodを設置しておいて、操作できる人が一人ずついれば、川と街の立て直しに先手を打つような対策が可能になります」と、これからの災害多発時代を見据える瀧氏。
その思いに応えるためにも、日立パワーソリューションズは地域のレジリエンス向上に貢献するソリューションを提供し、より良い社会の実現を支えていきます。

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滋賀県立大学 環境科学部 環境政策・計画学科 様

学科紹介
「答えを探すな。“問題”を探せ。」を学科コンセプトに掲げ、誰も気づかなかった問題を自分の力で発見する自主性を養う学びを行う。従来の学問分野には収まりきらない問題志向的な性格を持つ学びにおいて、学生による問題の発見・解明・解決という一連のプロセスにおいて、必要となるものを揃えている点が学科の大きな特徴。瀧氏の研究分野は流域政策・計画で、将来は治水領域で社会貢献をしたい夢を持つ多くの学生が集う。
URL
滋賀県立大学 https://www.usp.ac.jp/
環境科学部 環境政策・計画学科 https://depp-usp.com/
所在地
〒522-8533 滋賀県彦根市八坂町2500
TEL
0749-28-8200
  • ※本内容は2021年6月時点の情報です。
  • ※本事例に記載の情報は初掲載時のものであり、閲覧される時点では変更されている可能性があることをご了承ください。