滋賀県立大学 環境科学部 准教授 瀧 健太郎 様
気候変動に伴う集中豪雨や台風などに起因し、日本では毎年のように水害が発生しています。「河川氾濫による水害を最小限に抑えて、どのような洪水にあっても人命が失われることを避けたい」。そんな思いの下、滋賀県立大学 環境科学部 環境政策・計画学科 准教授 瀧健太郎氏は、流域の水循環と社会システムとの相互関係に着目し、持続可能な流域社会*1の実現に向けた政策や計画に関する研究を進めています。この研究に、日立パワーソリューションズのリアルタイム洪水シミュレータ「DioVISTA/Flood」が重要な役割を果たしています。DioVISTA/Floodによって切り開かれる治水・水害対策の可能性について、瀧氏と、開発者である株式会社 日立製作所 研究開発グループの山口悟史氏にお話を伺いました。
河川の氾濫を防いだり、護岸・ダムなどを整備したりする治水には、さまざまな側面があります。河川管理の視点に立つと、設定された洪水の基準に基づき、安全に河道の中を流下させることが重要です。また、防災危機管理の視点からは氾濫後にどう対策するか、さらに地域経済の視点からは、いかに事業継続させるかに力点が置かれることになります。置かれる力点は異なっても、治水の目的は一つ。人の命と暮らしを守ることです。
滋賀県立大学 環境科学部で流域政策・計画の研究を行う瀧氏は、前職の滋賀県庁で、県の治水に携わる流域治水政策室の職員として18年間、アメリカ合衆国駐在も経験しながら治水にまつわる多角的な経験と見聞を積み重ねてきました。その幅広い知見の下、「水害を最小限に抑えるために重要なことは、一番大切な目標を定めることです。それは、どのような洪水にあっても人命を最優先することです」と強調します。
「いかに災害を減らすかが、土木工学を専攻した大学時代からの関心事でした。県庁職員時代に、ソフトウエアを使った滋賀県の水害リスクマップ作成に携わっていましたが、元のデータは同じなのに委託業者が変わると計算結果が変わることに苦労しました。結果をご覧になる県民の皆さんは、自分の家が浸水するかどうか、どのくらい浸水するのかが最も重要であるのに、計算を依頼する委託業者が変わるたびに結果が変わってしまうのです。しかもプログラムはブラックボックスで閉ざされていましたから、なぜ違うのだと非常に歯がゆい思いをしました。また、河川区域だけでなく集水域・氾濫域での対策も総動員する流域治水を政策化(社会実装)するには、流域全体の浸水リスクを統一的に導き出せるソフトウエアが不可欠でした」と瀧氏。
公益社団法人土木学会『土木学会誌』で発表された瀧氏の考えに触れて、感銘を受けたのがDioVISTA/Flood の開発者である株式会社 日立製作所 研究開発グループの山口氏でした。「行政の方がここまでやるのかと驚き、開発を進めていたDioVISTA/Floodを一度使ってみてほしいと連絡を取りました。われわれエンジニアがソフトウエアの徹底的な改良を担うことで、瀧先生をはじめ水工学に携わる方々が本来の仕事に注力できれば、早くゴールをめざせるのではないか。瀧先生は『意思を持ってやれば道はできる』とおっしゃっています。こうした取り組みが広がれば日本は変わると思いました」